記事の概要:中国で駐在員事務所を設立するには?中国法人設立との違いとは?事務所設立までの流れや、必要なコスト等について解説します。
中国において駐在員事務所を設立する場合の要件や流れなどは、2011年3月1日に施工された「外国企業常駐代表機構登記管理条例」によって規定されています。
同条例で規定されている要件のうち、最も留意しなければならないのは駐在員事務所に法人としての人格がないことです。
簡単に言えば、駐在員事務所を設立したとしても、中国国内で営業活動を行うことはできない、ということです。
また、駐在員事務所の名義で提訴、応訴することができず、元の企業から独立して対外責任を負うこともできません。
中国における駐在員事務所の役割:
① 製品やサービスに関する市場調査
② 製品の紹介
③ サービスの提供による技術交流
④ 国内の買い付けや投資に関する連絡活動
上記①‐④のような、非営業行為に役割は限定されます。
上述したように、駐在員事務所での活動は非営業行為に限定されてしまうため、駐在員に任命され現地に派遣された人間は、
主に市場調査や現地でのパートナー企業探しなど、中国での事業展開に向けた下準備を行います。
ただし現地で受ける制約が多い分、拠点を設立する際の税務上・法務上の手間やコストを削減することができるため、
スピーディーかつローコストで拠点を構えることが可能です。
また、ローリスクローリターンとも言える「身軽さ」ゆえに、海外法人や海外支店を設立する前に、
現地市場のトレンド把握や事前マーケティングを行なっておきたい場合に最適な拠点形態でもあります。
駐在員事務所にどのような性質があるか理解していただけたかと思います。
本章では、中国において駐在員事務所を設立する場合の大まかな流れについて解説していきます。
1、 受け入れ保証先と駐在員事務所設立候補地の選定
受け入れ保証とは、駐在員事務所を設立する際の身元保証のようなものです。過去に関わりがあった中国企業、
もしくは、外国企業サポートを行なっている企業を保証として設定します。
また、駐在員事務所を開設する場所は、中国政府の指定する機関、もしくは中国政府の許可を得ている機関が
解説を認めているオフィスやホテルのみとなります。開設する場所が決定次第、賃貸借契約書を締結します。
ただし、例えば開設地域が北京である場合、開設場所は商業用オフィスビルでかつ、最低契約期間12ヶ月であるなど、
開設場所や契約期間に条件が付与されている場合もあります。
事務所開設予定の地域によって、前述のように条件が異なる場合があるため、事前確認が必要です。
2、 中国の認可機関への審査申請
中国の主管部門(認可機関)に、会社の規約や登記証明書をはじめとした会社関連の文書を提出し、審査を仰ぎます。
審査終了後、「駐在代表機構認可証書」が発行、通知されます。審査の際に必要となる書類は以下の通りです。
・駐在員事務所設立申請書
・駐在員事務所の首席代表、代表の委嘱書
・首席代表、代表の履歴書
・会社と取引関係のある金融機構が発行した資金信用証明 ・会社の登記簿謄本(会社の住所証明及び2年以上の存続を証明する合法的な営業証明書)
・会社の定款
・事務所の駐在場所の合法的使用証明
・首席代表、代表のパスポートの写し
・首席代表、代表の写真
・ 外国(地域)企業の出した署名権者に対する授権書または証明文書
・ 認可機構の認可文書
3、 工商行政管理局への登記申請
認可機関での審査終了後、30日以内に、工商行政管理局に登記申請を行います。登記が認められれば、
申請後一定期間内に、駐在員事務所に対しては「外国企業(地区)駐在代表機構登記証」、
駐在員に対しては駐在員事務所の代表証が発行・付与されます。
4、 国家機関での関係手続き
登記認定後、30日以内に公安機関や財務機関での関係手続き、及び現地銀行にて口座の解説を行います。
新任の海外進出の担当者様が持つ悩みとして、法人と駐在員事務所の違いがはっきり理解できていないことがあげられます。
法人設立と駐在員事務所設立との具体的な違いを以下の表にまとめました。
駐在員事務所設立と法人設立の最も大きな違いは、営業行為が可能であるか否かです。
前述しましたが、駐在員事務所では、一切の営業行為が禁止されています。
すでに中国でビジネス展開されており、本格的に事業拡大を考えている場合は法人設立が好ましいと言えます。
ただし現在では、駐在員事務所設立や法人設立以外にも、バーチャルオフィスやGEOの利用など、日本から中国への進出方法は多様化しています。
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中国現地に駐在員事務所を設立する場合、最もコストがかかるのはテナント代です。
駐在事務所を設立する地域によってテナント代金は前後しますが、例えば4大都市(北京、深セン、広州、上海)に設立する場合は、
2019年上半期のデータで1平方メートルあたりの年平均賃料は129.18米ドルとなっています。(「CBRE」のデータをもとに筆者が独自に算出)
日本の「労働安全衛生法」によると、従業員1人あたりの適正なテナント面積は、3坪(約10㎡)と言われています。
仮に駐在員と現地の従業員を2人雇い、3人体制の事務所を作る場合、適切な広さは9坪(約30㎡)となります。
4大都市の1㎡あたりの年平均賃料は約130米ドルですから、3人体制のオフィスとなると、年間3900米ドルかかることになります。
月額で換算すれば325米ドル、日本円で約35750円(1ドル110円換算)です。
ただし、あくまでこの数値は人3人分のスペースなので、給湯室やトイレなど、事務所の管理費も考慮しなければいけませんから、
算出額の3倍近くは必要になるでしょう。その前提で考えれば、駐在員1人、従業員2人を雇った場合、
賃料だけで1ヶ月あたり約11万円以上かかることになります。
それに3人分の人件費を加えれば、駐在事務所自体の運営に月70万円近くかかることになります。
(駐在員の給与を40万円、従業員の給与を10万円と仮定しています。)
その他前述した、事務所設立フローを現地の業者に委託する場合の費用を13000人民元(約19.9万円)(某中国企業の価格をもとに計算)とすると、
駐在事務所の設立コストは約20万円、維持コストは月70万円以上です。
また、この計算では福利厚生面を考慮してないので、実際はさらに費用がかさむと言えます。
駐在員事務所では原則として一切の営業行為が禁じられています。そのため、課税対象である収入や所得は発生しません。
ですが、事務所の運営は課税の対象となってしまいます。
これは、中国国家税務総局が、駐在員事務所が税務上の観点から営業を行なっているとみなしたことにより、
2003年3月12日付けで「外国企業の常駐代表機構に関連する税収管理問題に関する通知」(以下「28号通達」)を発布したことに起因します。
デロイトトゥシュトーマツ上海事務所の武藤淳氏のレポートによれば、以下の8つの活動を行なっている駐在員事務所は、
税務上の営業行為とみなされ課税対象となります。
1. 各種貿易に従事する会社、商社、商店等が設立した代表機構が従事する商品代理、貿易業務活動
2. ビジネス、法律、税務、会計等の各種コンサルティング・サービス企業が設立した代表機構が従事する各種サービス活動
3. グループまたは投資会社が設立した代表機構がそのグループ内の会社に提供する各種サービス活動
4. 広告会社が設立した代表機構が従事する請負または代理広告業務
5. 旅行会社が設立した代表機構が旅行者に提供するサービス活動
6. 銀行等の金融機構が設立した代表機構が兼営する投資コンサルティングまたはその他のコンサルティング・サービス
7. 運送企業が設立した代表機構が運送業務の各段階において顧客に提供するサービス
8. 代表機構が顧客に提供するその他の課税業務活動
さらに、上述した8つの課税区分はそれぞれ課税計算の方法が異なります。駐在員事務所に対する課税額を計算する際は、3つの計算方式が存在します。
・実際所得課税方式・・・ビジネスや法律、税務や会計等の各種コンサルティング企業が設立した駐在員事務所が従事する各種サービス活動に対する課税方式。
上記の活動から得た実際の収入に基づいて申告、納税を行います。
実際所得課税方式の計算方式は以下の通りです。
[課税所得]=[実際収入額]−[実際経費]
[企業所得税額]=[課税所得]×[25%(企業所得税率)]
[営業税]=[実際収入額]×[5%(営業税率)]
・経費課税方式・・・後述する3つの代理業各種あるいは、
自営貿易と代理貿易をはじめとした貿易業に従事するサービス業に分類される駐在員事務所に対する課税方式。
・各種貿易に従事する会社、商社、商店等が設立した駐在員事務所が従事する商品代理、貿易業務活動
・広告会社が設立した駐在員事務所が従事する請負または代理広告業務
・旅行会社が設立した駐在員事務所が旅行者に提供するサービス活動
経費課税方式の計算方法は以下の通りです。
[課税所得]=[経費支出額]÷[1−15%(推定利益率)−5%(営業税率)]×[15%(推定利益率)]
[企業所得税額]=[課税所得]×[25%(企業所得税率)]
[営業税]=[経費支出額]÷[1−15%(推定利益率)−5%(営業税率)]×[5%(営業税率)]
・推定利益率課税方式・・・以下に示した4つの活動のいずれかを行う駐在員事務所に対する課税方式。下記の活動において取得した業務収入について、四半期ごとに申告納税を行います。業務収入がない場合は、年度終了後1ヶ月以内に該当年度の活動報告を行います。
・グループまたは投資会社が設立した駐在員事務所がそのグループ内の会社に提供する各種サービス活動
・銀行等の金融機構が設立した駐在員事務所が兼営する投資コンサルティングまたはその他のコンサルティング・サービス
・運送企業が設立した駐在員事務所が運送業務の各段階において顧客に提供するサービス
・駐在員事務所が顧客に提供するその他の課税業務活動
推定利益率課税方式の計算方法は以下の通りです。
[課税所得]=(売契約額×推定コミッション率×国内収入比率)×[10%(推定利益率)]
(または、[課税所得]=(売買差額×国内収入比率)×[10%(推定利益率)])
[企業所得税額]=[課税所得]×[企業所得税率]
[営業税額]=(売契約額×推定コミッション率×国内収入比率)×[5%(営業税率)]
駐在員事務所と中国法人の主な違いは、現地で営業活動ができるかどうかです。
駐在員事務所にできるのは、非営業行為である下記の4点があげられます。
① 製品やサービスに関する市場調査
② 製品の紹介
③ サービスの提供による技術交流
④ 国内の買い付けや投資に関する連絡活動
また、駐在員事務所の設立は法人設立よりもはるかに簡単でコストも低く済みます。
たとえばすでに中国で連携している工場があり、直接出向く必要があるような取引がある場合などは、
連絡活動としての駐在員事務所の設立をおすすめします。
なお、新規で中国進出を検討している場合は、わざわざ駐在員事務所を設立する必要はありません。
まずは自社商品のニーズがあるかどうかの調査は代行業者を使うほうが、きちんと情報が集まり低コストで済みます。
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